「記憶のかけら」  時・イメージ・言葉

もっとやりきれないのは


愛し方が
わからないより

もっと
やりきれないのは

愛され方が
わからないこと


どこかなまめかしい

 
 花曇り、という言葉が好きである。
 辞書によると、桜の花の咲くころの薄くぼんやりと曇った空模様のことだそうだ。花曇りの空も、その空の下で咲く桜も好きである。
 桜には、晴れ渡った青い空もよく似合うが、満開に咲くわが身の美しさを充分に承知しながら、敢えてちょっとその美しさを恥じらっているかのようで、花曇りの空の下の桜はどこかなまめかしい。
 おとなの女ならぬ、おとなの桜という趣を感じる。


誰も彼も


気づいたときには
はじまっている

はじまるときには
終わりもはじまっている

終わりにむかって
はじまっている

誰も
彼も

終わりにむかって
進んでいる

どんなに
願っても

どんなに
求めても

はじまりには
誰も戻れないから

ただ
懐かしみながら

そっと
思い出しながら

誰も
彼も

終わりにむかって
進んでいく


その間で


明日がくる
重ったるさ

明日がこない
おそろしさ

その はざま
ゆらゆらと

今日を
生きている


ふいをつかれぬよう


虚しさに
追いつかれぬよう

わたしは
走って走って走って

淋しさに
つかまらぬよう

わたしは
逃げて逃げて逃げて

思い出と
出くわさぬよう

息を
ひそめてひそめてひそめて

ふいを
つかれぬよう

全身を
かたくかたく閉ざして